紀行

名前はカサンドラ

その日、地元の居酒屋で杉さんに会った。久々の対面で話したいことが沢山あったのだが、杉さんには奥さんの他にもう一人連れがおり、今は杉さんのところで治療家の見習い中という年齢不詳の女性だった。なぜ年齢不詳なのかというと、異常に化粧が厚く、おそらく30歳前後だとは思うのだが、塗り壁のような化粧のせいで表情が全く読めなかったからだ。

おいらが見るともなしに顔を何度かチラ見すると、杉さんが察したように「ああ、こちらはね、親戚の子を預かっているんだが、なんというか、少し・・・病んでいて、この変な化粧は仮面みたいなもんだと思ってくれればいいよ、名前はカサンドラでいいよ」とこともなげに言い放った。「はっ・・カサンドラさんですか?」「うん、「さん」はいらないからカサンドラで」杉さんはあまりこの人の話題に触れたくなさそうだったので、おいらは瞑想の成果を一気に話し出した。おいらの話を聞き終わると、「ふーん。そう、それで、結局何が変わったわけ?」と核心のところをいきなり杉さんは突いてきた。隣で奥さんは黙ったまま日本酒を口にしていた。「そうですね~、変わったというか、改めて自分の思考の性質についての認識を深めました」「そうか、、、たぶんね、それはいいことだと思うんだが、キョジャ君にはもっと大事なことがあるよ」杉さんはゆっくりと諭すように話した。「大事なこと、、、なんですかそれって?」おいらは少しむっとした。杉さんがもしかして、ほめてくれるのではないかと勘違いしていたのだ。おいらは成長していて、それが目に見えて相手に伝わっているに違いないとどこかでかってに思っていたからだ。

すると、同席していた「厚化粧の女」が、おもむろにカバンを開け、その中をガラガラ掻き回すと何かを一つ取り出して、テーブルの上にそっと置いた。それは小さな口紅くらいの小瓶で、なにか花の模様がラベルに書いてあるのが見て取れた。「な、なんですか、これ?」「うん、これはね、バッチフラワーって言ってね、人のマイナス感情をプラスの感情に変えてくれるものなんだよ」杉さんが引き取って答えた。「へっ、マイナス感情ですか?」「そう、マイナス感情。カサンドラはね、小さいころのトラウマがあって、このバッチフラワーを使っているのだよ」「はあ、そうですか」おいらがカサンドラを見ると、カサンドラは必ずおいらから目を逸らした。「そんで、なんで、これをおいらに?」「うん、カサンドラには特殊な能力があって、その人に会うバッチフラワーが分かるというか、頭の中で声が聞こえるんだよ。その瓶のラベルには何って書いてある?」杉さんに促されて、その小瓶を手に取り、ラベルを読んでみると、そこには、「チコリー」と書いてあった。

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